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11月

18歳人口の流出だけに留まらない新たな現象

私は,北海道釧路市で弁護士をしています。
女性弁護士として,地域の女性達から何かと頼られることが多く,ひとり親となった母親からの養育費等の相談も多くあります。

ひとり親の多くは,満足な養育費の支払いを受けられておらず,子どもの高校卒業後の進路については,ほぼ全てを奨学金で賄うという状況です。
釧路市内には,文系の国公立大学2校と短大,看護学校等の専門学校が数校あるだけで,子どもの進路希望に添う進学先がない場合が多くあります。
子どもの進路希望に添う進学先を探すとなると道内ではどうしても多くの高等教育機関がある札幌市を選択せざるを得ないということになります。

ひとり親にとって,学校に納付する学費等の諸費用を奨学金で賄うだけでも大変な状況です。
さらに札幌市へ進学する子どもに生活費を仕送りするとなると,それはほぼ不可能な状況と言えます。
そこで,親子は,生活費の分まで奨学金を借りて賄うか,生活費の全てや一部を子どものアルバイトで賄うかということで悩むことになります。
しかし,ここ数年,「親子で札幌に転居することにしました。」という決断をされる親子が増えて来ました。母親が子どもと一緒に転居すれば,生活費の二重負担を避けられるという訳です。
また,札幌市では自動車の保有も必須ではなく,その分の経費も節約になりますし,母親が新たな職を札幌で見つけることもそう困難ではないそうで,職種が多種多様なためダブルワークもし易いということのようです。

親子の新たな決断に幸多かれと願うとともに,人口流出がこのような形で進行していくことについて,日々思うことばかりです。 

弁護士 篠田奈保子(釧路弁護士会所属)

独立行政法人日本学生支援機構に対し、分別の利益を無視した保証人に対する全額請求の即刻停止と、保証人から取得した支払義務のない金員全額の即時返還を求める緊急声明

声明文(PDF)のダウンロード

声明の趣旨

当会議は、独立行政法人日本学生支援機構に対し、学資金の借主の保証人が有する分別の利益を無視して保証人に全額請求する行為を直ちに止め、あわせて、これまで分別の利益を無視して保証人から取得した法律上支払義務のない金員は、保証人が敢えて返還を求めない場合を除き、これを直ちに全額返還するよう求める。   

声明の理由

1 独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」と言う)の学資金貸与制度では、個人保証が付される場合、制度上、連帯保証人と保証人の2名が必要とされる。
この場合、本人が支払わないと、連帯保証人には全額の支払義務があるのに対し、保証人には、法律上、頭数で割った金額すなわち2分の1の支払義務しかない。
これを保証人の「分別の利益」という(民法第456条、第427条)。

2 しかるに、朝日新聞の2018年11月1日付の記事によれば、機構は、本人と連帯保証人が返せないと判断した場合、保証人に全額を請求し、その際、返還に応じなければ法的措置を取る旨も伝えていることが明らかになった。
機構によると、2017年度までの8年間で延べ825人に全額請求し,総額は約13億円、9割以上が裁判などを経て応じたという。

かかる請求は、保証人に対し、法律上支払義務のない金員の支払いを求める行為であり、法律上原因のない請求である。2分の1を超える金員を保証人から取得すれば、保証人が支払義務のないことを知りながら敢えて支払った場合以外は、その財産権の移転は法律上正当化されず、不当利得として、保証人の返還請求の対象となるものである。

上記記事によると、機構は、「法解釈上、分別の利益は保証人から主張すべきものと認識している」、「法的に問題のない請求」と説明しているとのことであるが、完全な誤りである。分別の利益は、もともと連帯保証人と保証人の2人の保証人がいる場合には、当然に、保証人の支払義務を法律上2分の1に減ずるものであり、保証人が分別の利益を主張するか否かとは全く関係がない。
機構は、保証人に対し、もともと、法律上、2分の1の金額の請求権しかないのであり、保証人には2分の1の支払義務しかない。
保証人に対する全額請求は、保証人に対し、義務なき支払いを求める行為以外の何ものでもない。

このような機構の請求は、分別の利益を知らない保証人の法的知識の欠如につけ込んで、法律上正当化されない金員の取得を目指すものであり、かかる行為を組織的に行ってきたことは極めて不当であり、大きな社会的非難を免れない。

3 なお、分別の利益は、訴訟法上、いわゆる抗弁と位置づけられているが、それは、機構の全額請求を正当化するものでは断じてない。
分別の利益は、消滅時効の抗弁のように債務者の主張によって効果を生ずるものではなく、当初から、保証人の支払義務の範囲が法律上2分の1に減ぜられるものだからである。

これに関し、同じく抗弁と位置づけられる弁済の抗弁について言えば、例えば100万円の貸金のうち借主が30万円を弁済すれば、(利息や損害金を考慮しなければ)残債務は70万円であって、貸主が法律上70万円を超えて請求することはできない。
この場合、貸主が30万円の弁済の事実を知りながらそれに触れないで100万円を請求すれば、架空請求であるとの非難を免れないであろう。

分別の利益が抗弁であることが機構の全額請求を正当化するものではないことは、上記からも明らかである。
「抗弁」という分類は、当事者ではない裁判所の判断の枠組みを定めるものであって、法律上根拠のない請求を正当化する仕組みではない。

4 報道によれば、機構は、本年11月2日、学資金を返還中の保証人の一部について救済する考えを示し、全額の返還請求を受けて機構との返還計画に合意して返還中の保証人については、分別の利益を主張すれば減額に応じる旨を表明したとのことである。

しかし、そもそも保証人は、分別の利益を主張するか否かに関わらず、当初から全額の支払義務がないのであるから、減額の対象を分別の利益を主張した保証人に限るべきではない。
これに関し、機構は、すでに返還した額が総額の2分の1を超えている場合、超過分=過払金の返還に応じないとしているとのことだが、超過分の返還合意は、保証人が超過分の支払義務がないことを知りながら合意したのでない限り、保証人の法的知識の欠如につけ込み、保証人の錯誤を利用してなされた合意であるから、超過部分につき無効である。よって、超過分=過払金は直ちに返還すべきである。

更に、機構は、返還を終えた人や、裁判の判決や和解で返還計画が確定した人は、返還中でも減額に応じないとしているとのことである。
しかし、保証人が総額の2分の1を超えて返還をした場合、超過分は機構の悪意による不当利得(民法第704条、第703条)として、機構は利息を付けて返還するとともに損害賠償をする法律上の義務を負うのであるから、返還を終えた人に対する返還を拒む正当な理由は何ら存在しない。
機構が訴訟の場で保証人に対して全額請求をし、保証人がこれを争わずに全額の支払いを求める判決が出されて確定している事案、または訴訟上の和解が成立している事案においても、もともと、保証人に全額の支払義務がないこと、及び機構には保証人に対して全額を請求する権利はないことに変わりない。
機構は、減額に応じない理由につき「法的に問題のない請求に基づいているため」と説明しているとのことだが、そもそも、2分の1を超える超過分につき、機構は保証人に対する法的請求権を有しない。
このような判決・和解は、機構の法律上根拠のない全額請求と保証人の法的知識の欠如によって得られたものに過ぎないから、法的に問題のない請求に基づいているとの説明は完全な誤りであり、減額を拒む理由たり得ない。

なお、もし、機構が、裁判所を利用した回収すなわち支払督促手続及び訴訟手続において、保証人のほかに連帯保証人が存在することを主張において明らかにしないまま、保証人に対する全額請求をし、これを認容する判決を取得していたとすれば、判決の不正取得であるとの批判を免れない。

5 よって、当会議は、機構に対し、保証人に全額を請求する行為を直ちに止めるよう求めるとともに、これまで分別の利益を無視して保証人から取得した法律上支払義務のない金員を直ちに全額返還するよう求める。

あわせて、これまで何人の保証人に対して2分の1を超える金額をいくら請求し、何人の保証人から2分の1を超える金額をいくら回収したかを、直ちに精査の上、その結果を公表するよう求める。

なお,返還後の本人・連帯保証人との関係については,本件の原因が機構の保証人の法的知識の欠如につけ込む極めて不当な回収方法にあることを踏まえ,適切な対応が必要である。

6 保証人が複数存在する場合に、分別の利益を無視して、保証人に対して全額を請求するような行為は、社会問題化したサラ金被害においても、商工ローン被害においても、過去に行われたことがない極めて不当な行為である。
ちなみに、貸金業者に適用される貸金業法第12条の6第1号は「貸金業者が資金需要者等に対し、虚偽のことを告げ、又は貸付けの契約の内容のうち重要な事項を告げない行為」を禁止し、金融庁のガイドラインは「資金需要者等が契約の内容について誤解していること又はその蓋然性が高いことを認識しつつ正確な内容を告げず、資金需要者等の適正な判断を妨げること」は、これに該当するおそれが大きいことに留意する必要があるとしている。

学資金の貸与事業は教育の機会均等を図るための重要な事業であるが、だからこそ、その原資の一部が法律上の根拠なく、保証人の法的知識の欠如につけ込んで回収された金員であるという事実に驚きと怒りを禁じえない。
かかる行為を公的機関が組織的に行うことは、断じて許されるものではない。

当会議は、機構に対して、猛省を求めるとともに、かかる事態は法令違反もしくは著しく適正を欠くものであったにもかかわらず、これを放置し、独立行政法人通則法所定の措置をとらなかった文部科学省に対しても、猛省を求めるものである。

以上

独立行政法人日本学生支援機構 御中
文  部  科  学  省  御中

2018年11月8日       

奨学金問題対策全国会議     
共同代表  大  内  裕  和
共同代表  伊  東  達  也
事務局長  岩  重  佳  治