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政策提言集「『奨学金』制度改善への政策提言-利用者の『負担』と『不安』を軽減するために-」

当会では、我が国から「奨学金被害」をなくし、真に学びと成長を支える学費と奨学金を実現するため、現在の学費・奨学金制度の問題点の整理と今後の改善の方向性について記載した政策提言「『奨学金』制度改善への政策提言-利用者の『負担』と『不安』を軽減するために-」を2019年5月18日に発表しました。

PDFファイルとして公開させていただきます。ご自由に利用して頂いて構いませんので、学費・奨学金問題の理解と今後の改善に役立てて頂ければ幸いです。

(PDFファイル:全40ページ、約800KB)

国際人権A規約13条2項(e)について

国際人権A規約13条2項(e)は、日本政府の訳ではこのようになっている:

2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。
(e)すべての段階にわたる学校制度の発展を積極的に追求し、適当な奨学金制度を設立し及び教育職員の物質的条件を不断に改善すること。

日本では、給付であれ、貸与であれ、およそ学修継続を目的に学生(本人)を対象とするものであれば、「奨学金」と呼ばれることが多い。
したがって、一定の国費が投入されている日本学生支援機構が貸与制「奨学金」制度を設けている以上、明かな条約違反とはいえない、と思われよう。
しかし、国際人権規約のこの条文は、本来給付制奨学金の設立を求めるものであったならば、どうであろうか。
国際人権A規約31条1項には、規約の正文が定められている。

1 この規約は、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とし、国際連合に寄託される

つまり、日本語訳は法的には何ら拘束力はないのであり、国際人権規約として法的に意味のある条文は、上記の5言語で書かれた正文である。そこで、各国語の13条2項eをみると、以下のようになっている。

○中国語
(戊)各级学校的制度,应积极加以发展;适当的奖学金制度,应予设置;教员的物质条件,应不断加以改善。

○英語
(e) The development of a system of schools at all levels shall be actively pursued, an adequate fellowship system shall be established, and the material conditions of teaching staff shall be continuously improved.

○フランス語
e) Il faut poursuivre activement le développement d’un réseau scolaire à tous les échelons, établir un système adéquat de bourses et améliorer de façon continue les conditions matérielles du personnel enseignant.

○ロシア語
(e) должно активно проводиться развитие сети школ всех ступеней, должна быть установлена удовлетворительная система стипендий и должны постоянно улучшаться материальные условия преподавательского персонала.

○スペイン語
e) Se debe proseguir activamente el desarrollo del sistema escolar en todos los ciclos de la enseñanza, implantar un sistema adecuado de becas, y mejorar continuamente las condiciones materiales del cuerpo docente.

まず、英語の”fellowship”とは、“money given to a student to allow them to continue their studies at an advanced level.”とされるから、給付制をいうものである(貸与制は、”student loan”である)。

次に、中国語で「奖学金」は給付奨学金を意味する。例えば、「国家助学奖学金」「国家助学贷款」などのように給付制と貸与制は明確に区別されており、給付制が「奖学金」と呼称されている(全国学生资助管理中心 2007)。

フランス語はよくわからないので、フランス留学中であった友人に聞いてみたところ、”bourse”は通常は給付のものをいい、高等教育機関では通常、社会的基準に応じて教育省から支給されるbourse d’étudeのことだという。仏仏辞典では”Pension qu‘ on accorde à un étudiant, à un élève.”(http://www.mediadico.com/)だが、ここでいう”pension”も定期金支払で、給付をいうそうである。なお、国家による貸与制度もあるが、こちらは”prêt”と呼ばれるとのことである。

スペイン語では”becas”が”beca”の複数形であり、“beca”は西和辞典では「奨学金、給費」、西西辞典では”Subvención para realizar estudios o investigaciones.”(http://lema.rae.es/)である。これは「学校教育や研究を実現するための補助金」(subvenciónは「補助金、助成金」)という意味であるから、やはり給付制である。

ロシア語については不明であるが、少なくともいずれにおいても、給付制の奨学金制度の設立が要求されていることがわかる。そして、英語の“fellowship”は一般にメリットベースをいうが、他の言語ではそのような限定はなく、フランス語では社会的基準(ニードベース)によるとのことであるから、国際人権規約13条2項(e)は特にメリットベース・ニードベースのいずれかを強調する趣旨ではないと考えられる。
そうすると、日本政府が”fellowship”, “bourse”, “beca”, “奖学金”を単純に「奨学金」と訳したのは、誤訳と言ってもよい。日本での「奨学金」という言葉の一般的な用法からすれば、「給付制奨学金」と訳すべきであったのである。

日本政府は、民主党政権下の2012年9月11日に13条2項(b),(c)のいわゆる漸進的無償化の部分について留保を撤回したが、(e)については以前より何の留保も付していない。
したがって、留保撤回以前から、給付制奨学金制度を国が設けていない点については、又は実質的に一部給付型であった日本育英会の特別貸与奨学金を1984年の日本育英会法改定で廃止した点については(日本は国際人権A規約を1979年6月21日に批准、同9月21日に発効)、国際人権A規約に違反していた、ということになる。
近時、ようやく国レベルで給付制奨学金が導入されたが、「適当な」といえる水準に達しているかは疑わしい。
国際人権規約が、あえて給付制奨学金を設けることを明記するほど、この制度は教育の機会均等のため重要であるということである。
これを踏まえ、給付制奨学金を「適当な」といえる水準に引き上げるために充実させていくことが必要である。

※本稿は2014.4.26に作成し、作成者のウェブサイトで公開していた論稿に加筆・修正したものである。
http://wriver.my.coocan.jp/gakuhi/gakuhi-k007.html

奨学金問題対策全国会議事務局次長 弁護士 西川治

新たな奨学金悪夢は生ずるのか

大手労組の機関誌に投稿する機会があり、次のように書きました。

「奨学金の返済困難さは、大学ではなくむしろ企業経営に影響します。延滞すれば日本学生支援機構から督促がきます。裁判所から督促状が来たら誰しも動揺します。心配で仕事が手につかない状況も危惧されます。また、現実に、この返済の負担は新入社員に重くのしかかっています。飲み会に参加出来ない、映画、コンサートなど文化的なイベントからも遠ざかる、自己啓蒙に書籍なども買えないという余裕のない社会人生活となります。」

この問題に気がついたいくつかの企業は、返済問題を抱えている新入社員への金銭的支援に乗り出してます。それはごく少数です。

多くの企業は、奨学金の返済に追われている学生は採用したくないと考えるのではないでしょうか。奨学金を利用した学生は、こんどは就職で厳しく対応されて、経団連は表向き奨学金の利用の有無を面接で聞くことを禁止と意見表明をするような展開です。こうなると悪夢です。

返済の大変さが若者の気力を蝕んでいるのは事実です。それを強調すると、こんどは就職が困難になり問題がより深刻化することを危惧してます。

奨学金問題対策全国会議 幹事 柴田武男(聖学院大学講師)

2018/4/21 シンポジウム:高等教育無償化・奨学金 『誰のため 何のためか』

【シンポジウムのお知らせ】
当会の設立5周年を記念して4月21日(土)にシンポジウムを行います。是非ご参加ください!

奨学金問題対策全国会議 設立5周年集会
「高等教育無償化・奨学金 『誰のため 何のためか』」

 (チラシPDFファイルダウンロードはこちらをクリックしてください。)

◆日時:2018年4月21日(土)
13:00~17:00(開場12:30)

◆場所:早稲田奉仕園 スコットホール


東京都新宿区西早稲田2-3-1
東京メトロ東西線「早稲田駅」2番出口 徒歩5分
東京メトロ副都心線「西早稲田駅」2番出口 徒歩8分

◆内容

5周年 特別記念講演
「高等教育の漸進的無償化を~大人の学びと雇用のために~」
東京工業大学名誉教授  矢野眞和 氏

対談
「奨学金という呪い-就職・結婚・出産」
作家・活動家 雨宮処凜 氏
中京大学教授 大内裕和 氏

当事者の方、若い世代からの発言など