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日本学生支援機構に対する不当利得返還等請求訴訟 和解成立の件

日本学生支援機構に対する不当利得返還等請求訴訟 和解成立の件

奨学金問題対策全国会議事務局長

弁護士  岩  重  佳  治

電話 03-6453-4390

(せたがや市民法律事務所内)

独立行政法人日本学生支援機構から、分別の利益(複数の保証人がある場合に、連帯保証人でない保証人が頭数で割った責任のみを負う法制度)を超える額の請求を受けてこれを支払った保証人が、2019年5月、日本学生支援機構に対して超過金の返還等を求める訴訟が、東京と札幌で継続していた。

このうち札幌訴訟については、2021年5月13日、札幌地裁が機構に過払金の返還を命ずる判決をし、2022年5月19日、控訴審である札幌高裁は、機構を悪意の受益者と認定して超過金に利息を付して返還するよう命じ、同判決が確定した。その後、機構は、超過金を支払った保証人に対して返還を開始している。

これを受けて、東京訴訟において和解の交渉が進められ、本日、機構が原告2名に対して、下記のとおり、超過金及び利息の合計約621万円を支払う旨の和解が成立した。

原告A(75歳男性 山梨県 パート) 姪の保証人

和解額554万8593円(不当利得返還請求:請求どおり)

元金461万2769円

利息93万5824円

不法行為に基づく慰謝料請求は放棄

原告B(40歳男性 埼玉県 ケアマネージャー) 弟の保証人

和解額66万9645円(不当利得返還請求:請求どおり)

元金52万2571円

利息14万7074円

不法行為に基づく慰謝料請求は放棄

和解に至る過程で、原告代理人らは、機構に対し、①超過金を支払った本訴訟の原告以外の保証人にも確実に返還がなされるよう、②今後保証人の意思に反する超過金の支払いがなされないよう、③超過金の支払いが無効であったことにより改めて請求を受ける借主や連帯保証人が不当な不利益を受けないよう、具体的な対応を、被告代理人を通じて機構に求めた。

機構はこれらの要求をほぼ受け入れ、別紙「今後の機構の方針等について」と題する書面をもって今後の対応の方針を示すに至った。

本訴訟の背景には、機構の法的管理体制を含むガバナンスの決定的な欠如、保障制度のあり方、回収至上主義、返還困難者に対する救済手段の欠陥など多くの問題がある。本事件は、これらにより生ずるべくして生じたものであり、その根本的解決なしには、制度の不適切な運用や返還困難者に対する強硬な回収により、今後も、制度の利用者、関係者が不利益を受け続け、制度に対する国民の信頼を更に失うことは確実である。

そこで、当弁護団は機構と国に対し、別紙「弁護団声明」のとおり、対応と制度の改善を求める。

札幌訴訟を含む本訴訟が、あるべき学費と奨学金制度実現への契機となることを期待する。


・今後の機構の方針等について(PDFファイル)


弁 護 団 声 明

(奨学金保証人に対する過大回収不当利得返還請求訴訟和解成立を受けて)

2022年10月13日

2019年5月、独立行政法人日本学生支援機構(以下、「機構」という。)から過大な請求を受けて支払った保証人4名が、東京地裁及び札幌地裁において過払分の返還等を求める訴訟を提起したが、本日、東京地裁において和解が成立し、両事件とも解決に至ることとなった。

本件は、親戚や教え子のために奨学金の単純保証人となった原告らに対し、機構が分別の利益(複数の保証人がある場合に、連帯保証人でない保証人が頭数で割った責任のみを負う法制度)を無視し、本来は奨学金の半額を返還する義務を負うに過ぎない保証人に対し、全額の請求を行い、全額(1名は7割強)の返還をさせたというものである。

札幌訴訟については、2021年5月13日、札幌地裁が機構に過払金の返還を命ずる判決をし、さらに2022年5月19日、控訴審である札幌高裁は、機構を悪意の受益者と認定して超過金に利息を付して返還するよう命じ、同判決が確定した。その後、機構は、超過金を支払った保証人に対して返還を開始している。

これを受けて、東京地裁において和解の交渉が進められ、本日、機構が原告2名に対して、過払金に利息を付し、合計約621万円を支払う内容の和解が成立した。

和解に至る過程で、原告代理人らは、機構に対し、次の点についての具体的な対応を求めた。

①本訴訟の原告以外の保証人についても、過払金が確実に返還されるようにすること。

②今後、保証人に対して、保証債務の額を超える支払い(全額請求)を行わないようにすること。

③過払金の返還により、改めて請求を受ける借主や連帯保証人が不当な不利益を受けないようにすること。

被告はこれらの要求をほぼ受け入れ、別紙「今後の機構の方針等について」と題する書面をもって今後の対応の方針を示すに至り、これを受けて原告らは本訴訟について和解を成立させることとした。これにて、本訴訟は一定の解決を得た。

他方、本訴訟の背景には、機構の法的管理体制を含むガバナンスの決定的な欠如、保証制度のあり方、回収至上主義、返還困難者に対する救済手段の欠陥など多くの問題がある。本事件は、これらにより生ずるべくして生じたものであり、その根本的解決なしには、制度の不適切な運用や返還困難者に対する強硬な回収により、今後も、制度の利用者、関係者が不利益を受け続け、制度に対する国民の信頼を更に失うことは確実である。

よって、当弁護団は機構と国に対し、下記の要請をする。

第1 機構に対して

1 今後の方針の公表

本訴訟で示された「今後の方針について」をホームページ等で公表するとともに、周知と現場での実践を徹底すること。

2 法的管理体制の整備等

(1) 今回の事態に至った原因を調査し、究明すること。

(2) 法の適正な適用及び制度の適切な運用に努めるため、必要な体制の整備を行うこと。

(3) 今後、上記(1)(2)について実行した対応を公表すること。

3 救済制度の適切な運用と適用

機構の学資金貸与制度には、極めて不十分ではあるが「返還期限の猶予」、「返還免除」その他返還困難者に対する救済制度が存在する。しかし、これらの制度すら、本来であれば利用できるはずの多くの人に適用されていない。これは、機構が、返還困難者に対する請求と回収に終始し、延滞者または返還困難者の状況をよく聴取して適切な制度の適用に繋げる姿勢と能力を欠くことによる。また、従来から、返済能力とはおよそ関係のない利用制限を課していることが、救済を困難にしている。

かかる状況を是正するため、以下の対応を求める。

(1) 延滞があること、機構が法的手続を実施したこと、機構が消滅時効を援用されたこと等、救済制度について、返済能力と関係のない事由による利用制限を直ちに止めること。

(2) 延滞者や相談者から、返還が困難な事情、生活状況等を詳細に聴取確認し、必要な救済制度を必要な人に漏れなく適用すべく、体制を早急に整備すること。

(3) 制度の運用、及び個々の事案における意思決定に、制度利用者及び返還困難者の視点を有する個人または団体を参加させるなど、利用者側の利益を反映できる体制を整えること。

第2 国に対して

1 保証制度の抜本的な見直し

貸与奨学金は、将来の仕事や収入が分からない状況で借り入れるため、当初から返還困難に陥る相当な危険を内包している。さらに、学費の高騰等による借入額の増加、それに伴う返還期間の長期化、低賃金・不安定雇用の増加など格差・貧困の拡大により、その危険は更に大きくなっている。

この危険は、保証人も抱えることとなる。さらに、保証人は借主(奨学生)の親世代が多く、年金暮らしなど高齢になってから保証債務の履行を求められることも、負担をさらに大きくしている。また、機構の学資金貸与制度における「返還期限の猶予」「返還免除」などの救済制度は、保証人には適用されない。借主が要件を満たす場合でも、その申請手続を行うかどうかは借主次第である。

このように、連帯保証人・単純保証人を問わず、一般の保証に比べて、貸与奨学金の保証人の責任の重さは際立っている。

他方、借主は、連帯保証人や保証人に迷惑をかけることを怖れて、無理な返済を続けることが多く、困難な状況に追い打ちをかけている。借主と連帯保証人、保証人が複雑な家族関係、親族関係にある場合には、その深刻さは更に顕著である。

そこで、機構の学資金における保証制度の抜本的な改革のため、下記の各事項を求める。

(1) 人的保証制度を撤廃し、機関保証制度に一本化すること。あわせて保証料の負担を引き下げること。

(2) それが実現するまでの間は、保証債務の履行が困難な保証人に、無理な支払いを求めないこと。保証人が自ら申請できる救済制度を、至急、創設すること。

(3) 将来的には、機関保証を含む保証制度そのものを撤廃すること。

2 保証に依存しない制度の実現

返還困難者からの無理な回収、保証制度への依存の背景には、高い回収率の確保を前提としたー原則として全員から全額を回収するというー制度設計がある。しかし、貸与奨学金は、当初から債務不履行の危険を内包するものであり、ある程度の返還不能者がいることを前提として制度設計されなければならない。

無理な回収は、返還の負担と不安から貸与奨学金の利用をためらわせ、ひいては進学断念や退学、アルバイト過多などによる学びの空洞化をもたらしうるものであり、学びと人生を支える奨学金本来の趣旨と大きく矛盾する。そこで、以下の制度の実現を求める。

(1) 借主の経済状況からみて無理のある返済を求めず、また一生借金漬けとならないよう、返還中の経済状況に応じた柔軟な返還額の設定・見直し、一定年数の経過や一定年齢の到達による返還免除など、返済制度及び救済制度を抜本的に改善すること。

(2) 著しく高騰した学費を下げていくことを見据えつつ、当面、給付奨学金や授業料・入学金等の免除の拡大など、貸与奨学金以外の学費負担軽減策を抜本的に拡大すること。

東京奨学金問題弁護団
弁護士 岩重佳治
弁護士 鴨田 譲
弁護士 西川 治
弁護士 坂本通子

北海道奨学金問題弁護団
弁護士 西 博和
弁護士 橋本祐樹

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