物価・学費の上昇に応じた経済支援制度の充実と奨学金返還者の負担軽減を求める意見書

2026年9月25日
奨学金問題対策全国会議

目次

第1 意見の趣旨

1 近時の物価等の上昇に応じ、次のとおり、奨学金等の経済的支援制度を充実すべきである。
⑴ 高等教育の修学支援制度について

ア 授業料免除の限度額を、直近の私立学校の授業料水準を踏まえた額(私立大学・学部で75万円など)に引き上げるとともに、今後も定期的に授業料水準の推移に合わせて改定すること。

イ 学資支給金の支給額を、直近の学生生活費水準を踏まえた額(私立大学・自宅外通学で8万4000円など)に引き上げるとともに、今後も2年ごとの学生生活調査の結果を踏まえて改定すること。

⑵ 貸与奨学金について

ア 第一種奨学金(無利子貸与)の貸与上限額を、直近の学生生活費水準を踏まえた額(私立大学・自宅外通学で6万9000円など)に引き上げるとともに、今後も2年ごとの学生生活調査の結果を踏まえて改定すること。

イ 第一種奨学金及び第二種奨学金(有利子貸与)の家計基準を物価・賃金の上昇に応じて随時改定すること

2 貸与奨学金の返還期限猶予の収入基準を給与収入380万円(所得260万円)に緩和するとともに、今後も定期的に賃金・物価の推移に合わせて改定し、奨学金返還者の返還の負担を軽減すべきである。

3 物価・金利上昇局面においても高等教育の機会均等を確保できるものとなるよう、学生への経済的支援制度を次のとおり改善すべきである。

⑴ 第一種奨学金と第二種奨学金の併用貸与の家計基準を廃止して、第一種奨学金の家計基準を満たせば併用貸与を受けられるようにすること。

⑵ 第二種奨学金の利率が3パーセントを超えない場合にあっても、賃金上昇率を超える部分の利子補給を行うなど、物価変動がほとんどない時期に貸与を受けた奨学生と物価上昇時に貸与を受けた奨学生との間の格差を是正し、生まれの時期による不公平感を生まない制度とすること。

第2 意見の理由

1 学費を含む物価が上昇しても支援は増えないという矛盾

⑴ 近時の急激な物価上昇は、食費をはじめとする学生生活費の負担増のみならず、授業料値上げをはじめとする学費の負担増として学生やその家族の生活に影響を及ぼしている。
ところが、そのような学生とその家族を支援するはずの高等教育の修学支援制度や貸与奨学金制度による支援は物価上昇前の水準のまま据え置かれている。

⑵ 高等教育の修学支援制度は、基本的に授業料等免除と給付奨学金(学資支給金)の2つで構成されているが、いずれの水準も令和2年の制度開始時から据え置かれている。

ア 授業料等免除についてみると、例えば、私立大学1における授業料免除の上限額は、令和2年の制度開始時に国立大学の授業料標準額と私立大学の授業料平均額の中間額程度として70万円と設定された。
ところが、制度導入後も私立大学の授業料は上昇を続け、直近の令和7年度調査では96万8069円に達し2、国立大学の授業料標準額(53 万5800円)との中間額が初めて75万円を超えた。
しかし、授業料免除の上限額は、政令改正3で足りるにもかかわらず、令和2年の制度開始時から一切改定されていない。
少なくとも私立大学・学部については国立大学の授業料標準額と私立大学の授業料平均額の中間額程度である75万円まで引き上げ、他の区分についても同様に現在の授業料等の水準に合わせた水準まで引き上げるとともに、今後も文部科学省が行う私立大学等の入学者に係る学生納付金等調査結果が明らかになるごとに改定していくべきである。

イ 学資支給金についてみると、日本学生支援機構の学生生活調査結果による学生生活費は次のとおり上昇している4。

区分[A]学生生活費[B]
学資支給金
[B]÷[A]充足率[A]-[B]不足額
H30調査R6調査H30調査R6調査H30調査R6調査
国立・自宅52,225 61,317 29,200 55.9% 47.6% 23,025 32,117
国立・下宿106,058 111,800 66,700 62.9% 59.7% 39,358 45,100
国立・下宿・東京圏128,425 146,358 66,700 51.9% 45.6% 61,725 79,658
私立・自宅92,567 100,450 38,300 41.4% 38.1% 54,267 62,150
私立・下宿149,608 165,758 75,800 50.7% 45.7% 73,808 89,958
私立・下宿・東京圏158,450 182,642 75,800 47.8% 41.5% 82,650 106,842

最低賃金の引上げ等によりアルバイト収入に若干の増加は想定されるとしても、特に私立大学・下宿の学生にとって、学業に支障を来さない程度のアルバイト収入のみでは不足分を賄いきれない水準に達しつつある。
しかし、学資支給金の額も、同様に政令改正5で足りるにもかかわらず、令和2年の制度開始時から一切改定されていない。
少なくとも、平均的な学生生活費に対する割合が、制度導入時と同程度となるような水準(例・私立大学・自宅外の場合、8万4000円6)まで引き上げるとともに、今後も2年ごとに行われる日本学生支援機構が行う学生生活調査結果が明らかになるごとに改定していくべきである。

⑶ ア 貸与奨学金のうち、第一種奨学金(無利子貸与)の貸与上限額は、政令改正7で足りるにもかかわらず、平成17年度を最後に一切増額されていない8。むしろ、平成26年度には上限額の貸与を受けるための家計基準が強化されており、中間所得層が利用可能な貸与上限額は減額されている。
高等教育の修学支援制度の導入後の第一種奨学金(無利子貸与)利用者は、基本的に授業料等免除を受けられない層である9。生活費の負担増のみならず、値上げ傾向にある授業料もすべて自己負担せざるを得ないのであり、これらの推移に見合った貸与上限額の引き上げが必要である。
少なくとも、平均的な学生生活費10に対する割合が、直近改定時(平成17年)と同程度となるような水準(例・私立大学・自宅外の場合、6万9000円11)まで引き上げるとともに、今後も2年ごとに行われる日本学生支援機構が行う学生生活調査結果が明らかになるごとに改定していくべきである。
なお、この間、家庭からの給付(いわゆる仕送り)は減り続けており、例えば、私立大学・下宿の場合、平成16年度は年額197万6300円、令和6年度は年額144万0300円と約27%減少した。特に家計が厳しく家庭からの仕送りが期待できない層が修学支援制度に移行したことを踏まえ、高等教育の修学支援制度導入後の第一種奨学金(無利子貸与)の貸与額の水準については、家庭からの給付(いわゆる仕送り)の減少を踏まえた改定が必要であることを付言する。

イ 第一種奨学金及び第二種奨学金(有利子貸与)の家計基準は、主に親(生計維持者)の所得により判断されているが、賃金が上がっても、物価上昇のため、実質賃金があまり上がらない近時においては、賃金水準の上昇に
合わせた家計基準の見直しだけでは不十分である。
特に第一種奨学金の家計基準の厳格化が進められてきた経過もあり12、物価・賃金の上昇に応じて随時家計基準の引き上げを行うべきである。

2 実質賃金が上がらない状況を踏まえた返還負担の軽減策

物価上昇の影響を受けているのは、奨学金の返還者も同じである。
日本学生支援機構の奨学金制度においては、返還期限猶予・減額返還といった返還困難時の救済制度が設けられているが、これらの利用の可否は、もっぱら収入又は所得の額(額面)により判断され、返還期限猶予については、年間の給与収入300万円(所得200万円)が基準とされている。
賃金額が上昇しても、物価上昇のために実質賃金があまり上がらない状況においては、返還が厳しい状況は変わらないにも関わらず、収入又は所得の額(額面)が増加したことでこれらの救済制度が利用できなくなる事態が生じる。
日本学生支援機構においては、減額返還の基準を緩和したものの、返還期限猶予の基準は少なくとも約20年間、据え置きとされたままである。
この間、大学卒の新卒初任給は約27%上昇しており13、これに応じて年間の給与収入380万円(所得260万円14)に引き上げるとともに、今後も賃金・物価の上昇に合わせて基準を引き上げるべきである。

3 物価・金利上昇局面でのあるべき学生への経済的支援制度の改善

⑴ 物価上昇とともに生じている金利の上昇は、第二種奨学金(有利子)の返還負担を増加させている。同時に、貸与中やこれから貸与を受けようとする学生の返還への不安を増大させており、貸与額を無理に減額したり、貸与を途中で打ち切ったりして、結果、アルバイト過多や中途退学に至ることも懸念される。
まず行うべき対策は、本来、第一種奨学金を利用することが想定されている学生が、第二種奨学金を利用せざるを得ない状況の解消である。
現在、第一種奨学金の貸与額は、学部段階で最も高額となる私立大学・自宅外であっても月額上限5万円(併用貸与の家計基準を満たす場合は6万4000円)であり、第二種奨学金の月額上限12万円の半分にも満たない。
第一種奨学金のみでは足りない場合、第一種奨学金と第二種奨学金を併用貸与できることもあるが、併用貸与の家計基準は、第一種奨学金のみを利用する場合の家計基準よりも低く抑えられている15。併用貸与の家計基準に該当しなければ、第一種奨学金の利用を断念して、第二種奨学金のみを利用せざるを得ない。本来、第一種奨学金の利用が想定されている学生に無用の利息の負担を負わせる状況は速やかに解消すべきである。
本来は、第一種奨学金の貸与上限額を、第二種奨学金の貸与上限額と同額に引き上げるべきであるが、それまでの間の措置として、第一種奨学金と第二種奨学金の併用貸与の家計基準を廃止し、第一種奨学金の家計基準に一本化すべきである。
すなわち、第一種奨学金の基準を満たす学生は全員、上限額まで第一種奨学金を利用した上で、不足分のみ第二種奨学金を利用する仕組みとすることで、金利負担を抑えることができるようにすべきである。

⑵ 第二種奨学金の利息については、金利が3%を超えたときは3%を超えた部分については国庫負担とし、返還者に負担させないこととされているが16、その範囲内であっても、上限の3%の場合、下限の0.001%に比べて返還総額が34%以上増加するなど、大きな差が生ずる17。
たまたま高等教育へ進学しようとする時期の社会情勢により、金利負担が大きく左右されるという事態は望ましいものではなく、それによって教育機会の均等が脅かされることはあってはならない。
例えば第二種奨学金の利率は賃金上昇率を上限とするなど、物価変動がほとんどない時期に貸与を受けた奨学生と物価上昇時に貸与を受けた奨学生との間の格差を是正し、生まれの時期による不公平感を生まない制度とすることが望まれる。

4 終わりに

本意見書は、あくまで現下の物価・学費の上昇に応じた経済支援制度の充実と奨学金返還者の負担軽減に絞った意見を述べるものである。
高等教育の修学支援制度、貸与奨学金制度をはじめ、高等教育段階での学生への経済的支援制度については、支援額の増額、支援対象者の拡大、各制度間の連携、人的保証の廃止、返還期限猶予の上限年数の緩和・廃止、返還負担の軽減など質量ともに拡充が必要であることを付言する。

以上

注釈
  1. 本意見書において、特に断らない場合は昼間部を指す。
  2. 私立大学等の令和7 年度入学者に係る学生納付金等調査結果について
  3. 大学等における修学の支援に関する法律施行令2条
  4. 「学生生活費」は、「イ」においては、高等教育の修学支援制度の授業料免除による免除分を除いた額。平成30年度学生生活調査結果、令和6年度学生生活調査結果の「1-1表 居住形態別・収入平均額及び学生生活費の内訳(大学学部・昼間部)」の「支出計」から国立大は「授業料」欄の額、私立大は授業料免除上限額(70万円)を控除して月額に換算した。ただし、「東京圏」は「支出計」に代えて「2表 居住形態別・地域別学生生活費の内訳」の金額を用いた。
  5. 独立行政法人日本学生支援機構法施行令1条
  6. 7万5800円÷14万9608円(平成30年度調査の学生生活費)×16万575円(令和6年度調査の学生生活費)
  7. 独立行政法人日本学生支援機構法施行令8条の2
  8. なお、平成17年当時の貸与額は学種や設置者、自宅・自宅外の別により定額であった。平成21年度に半額程度の貸与を可能とする貸与額の選択式が導入され、平成26年度からは貸与額を概ね1万円単位の選択式とする制度変更がなされた。
  9. 高等教育の修学支援制度による授業料等免除を利用する場合、第一種奨学金は全部又は一部を利用ができなくなり(併給調整)、不足分は第二種奨学金で補うことになる。
  10. 「学生生活費」は、「⑶」においては授業料を含む額。高等教育の修学支援制度が利用できない層を想定して検討する必要があるからである。
  11. 6万4000円÷20万7733円(平成16年度調査の学生生活費)×22万4092円(令和6年度調査の学生生活費)
  12. 主たる家計支持者の収入のみで判断する方法を父母双方の収入を合計して判断するように変更(平成23年度)、収入限度額の20%引き下げによる厳格化(平成25年度)。
  13. 賃金構造基本統計調査によれば、新規学卒者の所定内給与額(男女計・産業計・企業規模計)は、比較可能な推計値があるうち最も古い平成18年の20万6800円から令和7年の26万2300円へ約27%上昇している。平成19年~平成22年と比較すると約25~28%の上昇である。
  14. 給与収入380万円の場合の給与所得控除後の所得額。
  15. 2027年度大学等予約採用者について、両親と子1人の場合の家計基準の目安額は、第一種奨学金のみ716万円、併用貸与661万円。
  16. 第二種奨学金の基本貸与額部分。増額部分については3.2%が基準となる。
  17. 480万円(月10万円×48月)の貸与を受けて月賦返還する場合、次のとおりとなる。金額は、利率3%/0.001%の額である。
    • 月賦額:2万6914円/2万0002円(最終回:2万7064円/1万9909円)
    • 返還総額:645万9510円/480万0387円(1.346倍)
    • 利息総額:165万9510円/387円(4288倍)

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